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福岡地方裁判所 昭和35年(行)4号 判決 1960年9月30日

原告 高瀬七郎

被告 福岡県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「原告が小倉局加入電話(三)二一〇四番の電話加入権者であることを確認する」との判決を求め、

その請求の原因として、

一、小倉局加入電話(五)二一〇四番の電話加入権(以下単に本件電話加入権という)者はもと訴外ニユーコクラ有限会社であつたが同電話加入権は右訴外会社に対する国税滞納処分として小倉税務署より昭和三十一年四月二十三日公売処分に付され、同日原告が代金四万七千円でこれを競落して爾後本件電話加入権は原告に帰することとなつた。

二、しかるに小倉税務署との書類の行き違い等の手違いにより、本件電話加入権の譲受けについて、日本電信電話公社(以下単に公社という)の承認及び登録手続を遷延しているうちに、被告は、昭和三十四年六月十八日右訴外ニユーコクラ有限会社に対する県税滞納処分として本件電話加入権を差押えた。

三、しかしながら本件電話加入権が原告に属すること前記のとおりであるから、ここにその確認を求める。

と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、

答弁として、

一、請求原因第一項は不知。

二、同第二項中訴外ニユーコクラ有限会社に対する法人事業税、県民税、延滞加算金等合計金二十四万四千六百四十一円を徴収するため、福岡県小倉財務事務所長において昭和三十四年六月十八日、右訴外会社名義の本件電話加入権を差押え、小倉電話局に対しその旨通知し、同月二十日これが登録を了えて現に差押中のものであることは認めるがその余の事実は不知。

三、同第三項は否認する。仮りに本件電話加入権が実質的に原告に属するとしても、電話加入原簿には訴外ニユーコクラ有限会社がその名義人として登録されており、被告はこれを信じて差押えたものであるから原告は原告が本件電話加入権者である旨の主張を被告に対抗できないと述べた。

(立証省略)

理由

被告が昭和三十四年六月十八日、訴外ニユーコクラ有限会社に対する法人事業税等の県税滞納処分として本件電話加入権を差押えたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一号証、証人田中三郎の証言及び原告本人尋問の結果によると、本件電話加入権者は、もと訴外ニユーコクラ有限会社(旅館営業を目的)であつたが、原告は昭和三十一年頃右訴外会社に対する小倉税務署の国税滞納による公売処分において本件電話加入権を競落してその権利を取得したこと、しかるに、原告はかねて原告と昵懇の間柄にある前記訴外会社代表者田中三郎より、電話がなくては旅館営業を維持できなくなるから是非共本件電話を貸与して貰いたい旨懇請されたので、これを承諾し前記競落後二、三ケ月を経た頃、右訴外会社との間に本件電話使用を目的とする賃貸借契約を締結し、賃料は月額金五千円とし電話加入名義人は従前どおり右訴外会社としておく旨の約定がなされ、右約旨に従い原告は賃料として現在までに少くとも金一万円ないし一万五千円を受領していることが認められる。

しかして公衆電気通信法三十八条一項によると電話加入権の譲渡は公社の承認を受けなければその効力を生じないものとされ、これは強制執行による競売ないしは国税徴収法による公売手続による電話加入権取得の場合も同様に解されるところ、本件各証拠に照すも原告が本件電話加入権の取得について公社の承認を受けた形跡は認められないのみか却つて訴外ニユーコクラ有限会社との間の前記約定に基ずきいまなお本件電話加入名義を右訴外会社の名義としていることが認められる。

そうすると原告の本件電話加入権の取得は、いまだその効力を生じていないものと解せざるを得ないから、被告に対し、本件電話加入権が原告に属することの確認を求める原告の本訴請求は失当である。

よつてこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村平四郎 唐松寛 牧山市治)

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